
- 「定年後」を真剣に考えてみようと決心したけど、何から考えたらいいのかちっともわからない
- これから先、身の回りがどのように変化するのか見当もつかなくて不安
- 気持ちがあせってモヤモヤする
このように感じていませんか。
そのような方に、まず手にしてもらいたい本があります。
それは「LIFE SHIFT ~100年時代の人生戦略」リンダ・グラットン/アンドリュー・スコット著(東洋経済新報社)です。
・「LIFE SHIFT」をおすすめする理由
・「長寿化」によるライフスタイルの変化。「マルチステージ型」へ
・「マルチステージ型」を生きるために重要な資質。「変身資産」
・われわれ世代は「開拓者(パイオニア)」だった
この記事を書いている筆者は、心理学科卒の中小企業診断士。ここで紹介する本は、これから「定年後」を迎えるわれわれ世代にははずせない一冊です。いっけん難しそうですが、わかりやすく解説します。
「LIFE SHIFT」は、2016年に出版され45万部以上売れている大ベストセラーのビジネス書です。
最近さまざまな場所で「人生100年時代~」という言葉を見かけるようになりましたか、この本が発端なのです。
さすが「100歳時代の戦略的人生設計書」とうわたれるだけはあります。
これを読めば、「定年後」を真剣に考える大きな一歩を踏み出すことができます。
それではさっそくはじめましょう。
「LIFE SHIFT」をおすすめする理由

はじめに、「LIFE SHIFT」が、「定年後」を考えはじめたあなたになぜおすすめなのか、その理由をご説明します。
「定年後」を考える時に、やみくもに考えると時間ばかりかかってしまいます。
そうならないよう、先人たちが「効率的に考える枠組み」を残しておいてくれています。
企業が「経営戦略」をたてる枠組み(フレームワーク)です。個人の「人生戦略」に応用して考えることができます。

1. 外部環境分析 | 2. 内部環境分析 | 3. SWOT分析 | 4. マーケティング戦略 |
身のまわりの状況・変化を観察する | 自分をじっくり深掘りする | 身のわまりの「チャンス」と自分の「強み」を探す | 「チャンス」に「強み」をいかす計画をたてる |
「LIFE SHIFT」をおすすめする理由は、この「1.」と「2.」が詳しく分析されているからです。
1.外部環境分析
(身まわりの状況・変化を観察する)
2.内部環境分析
(自分をじっくり深掘りする)
日々の仕事に忙しい時に、「長寿化」とか「ライフスタイルの変化」などをじっくり考える時間などありません。
そのような時に「分析」「解説」してくれるのですから、こんなにありがたいことはありませんね。
まず、1.外部環境分析(身まわりの状況・変化を観察する) については、
を分析してくれています。
2.内部環境分析(自分のことをじっくり深掘りする)については、
について解説してくれています。
順番にみていきましょう。
1. 長寿化によるライフスタイルの変化

「LIFE SHIFT」では、長寿化によってライフスタイルがこのように変化すると分析しています。
今までの「3ステージ型」から「マルチステージ型」のライフスタイルへ移行する
長寿化による高齢化社会は世界的な傾向のようですが、そのなかでも日本はトップランナーです。
下のグラフでは、対欧米でも対アジアでも、日本の高齢化率の高さが目立ちます。

確かに、「年金の支給開始年齢」や「企業の雇用義務」は60歳から65歳に引き上げられ、さらに、70歳までの「就業機会の確保」の努力義務がはじまっています。
「定年後」の動向は、別記事 »「定年後」は皆どうしているのか?【データで見る定年後】で詳しく説明しています。そちらの記事もぜひお読みください。
まるで「年金」だけでは生活費が足りず「長く働く」必要があるようで、悲観的な気持ちになってしまいます。
「LIFE SHIFT」では、
「長寿化」を「時間」という贈り物だと表現しています。
長寿化がもたらす恩恵は、煎じ詰めれば「時間」という贈り物だ。
人生が長くなれば、目的意識をもって有意義な人生を形づくるチャンスが生まれる。
(P219 第6章「新しいステージ 選択の多様化」より)
「長寿化」は悲観的な話ではなく、「贈り物」というほどポジティブな話だったのです。
「3ステージ型」⇛「マルチステージ型」ライフスタイルとは

「3ステージ型」とは、
「教育→仕事→引退」という3段階の人生モデルです。若い時に勉強し、定年まで働き、引退後は余生を送るという典型的な「ライフスタイル」です。
これからの「マルチステージ型」とは、
長期化する仕事期間で、複数の「キャリアチェンジ」と、そのための「学び直し」を繰り返す「ライフスタイル」のことを言います。
「マルチステージ型」ライフスタイルの特徴は、「多様性」「不確実性」です。
環境が変われば、適応するために自分も変わらなければなりません。
その状態を「リミナリティ」という言葉で表現しています。
「マルチステージ型」は「リミナリティ」な心理状態

「リミナリティ」とは人類学の用語です。意味は、
「以前の立場を失い、まだ新しい立場に移行していない、宙ぶらりんな段階の曖昧さや不確かさ」です。
『LIFE SHIFT』では、「リミナリティ」を、まるで「思春期」の心理状態のように、こう表現しています。
そのような状態は居心地が悪い。
古いアイデンティティは消え始めているのに、新しいアイデンティティがまだ確立されていないからだ。
過去の安定は失われ、未来の成功も見えていない。
(P158 第4章「見えない「資産」―お金に換算できないもの」より)
つまり
「マルチステージ型」ライフスタイルとは、思春期の「リミナリティ」な心理状態が繰り返されるということです。
そして
いつ「リミナリティ」の状態になるのかは、人それぞれタイミングが異なるといっています。
まさに「多様性」「不確実性」です。
「マルチステージ型」ライフスタイルで得られる2つのこと
「多様性」「不確実性」は、このような行動をうながします。
「エイジ(年齢)」と「ステージ(段階)」が、みな一緒の時期でなくなる。
そして、この変化により、誰もが「2つのもの」を得られるようになると言っています。
「若者の柔軟性と好奇心」と「高齢者の知識と洞察力」
マルチステージの人生が普通になり、人生で様々な活動を経験する順序が多様化すれば、「エイジ(=年齢)」と「ステージ」が必ずしもイコールでなくなる。(中略)
エイジとステージが切り離されれば、様々な年齢層が混ざり合う機会が飛躍的に増える。(中略)
さまざまな世代が一緒に活動し、混ざり合いやすくなれば、年齢に関する固定観念のいくつかは消えていく。
それにより、誰もが若者の柔軟性と好奇心、そして高齢者の知識と洞察力の両方を得られるようになる。
(P224~227 第6章 「新しいステージ」より)
また、このようにも言っています。
「異なる年齢層の人たちが共通の経験をする」「人的ネットワークの年齢的な均質性が崩れる(仲間が同年代とは限らなくなる)」
マルチステージの人生が一般的になれば、異なる年齢層の人たちが同じ経験をする機会が生まれる。(中略)
年齢層の異なる人たちが触れ合う機会が増えれば、人的ネットワークの年齢的な均質性が崩れ始める。
異なる年齢層の人たちが共通の経験をし、それを通じておそらくは友情をはぐくむからだ。
こうして、高齢者が「別世界」の住人という状況は変わり始めるだろう。
(P353 第9章「未来の人間関係―私生活はこう変わる」より)
筆者は、数カ月前「職業訓練校」で、ここに書かれているとおりの体験をしました。
そこでは、20代から60代までが一緒に、助け合い、6か月間「学び直し」をしました。
まさに、異なる年齢層の人たちが同じ経験をしていたのです。
20代〜60代が仲間、同期生なのです。
その時の体験談を別記事 »体験ルポ!「定年後」のリスキリングに最高に役立つ「職業訓練」で紹介しています。興味のある方はそちらもぜひお読みください。
「1. 長寿化によるライフスタイルの変化」のまとめ
「1. 長寿化によるライフスタイルの変化」をまとめると、
これからは「多様性」「不確実性」がキーワードの「マルチステージ型」の人生にかわっていく
ということになります。
ステージ種類 一覧 | ライフスタイルの変化 | 状 態 |
---|---|---|
今まで (過去) | 3ステージ型 | ・確実性 ・予測可能な人生 |
これから (未来) | マルチステージ型 | ・不確実性 ・多様性のある人生 ・思春期の「リミナリティ」な心理状態 |
次は、このようなライフスタイルを生きるために必要とされる「重要な資産」についてです。
2. ライフスタイルの変化を生きるための重要な資産 ~変身資産~

「LIFE SHIFT」では、マルチステージ型ライフスタイルを生きるための重要な資産は、「無形の資産」であると述べています。
「無形の資産」とは、お金とか土地といった「有形の資産」ではなく、“目に見えず計測できず売買できない資産” です。
「無形の資産」は次の3つです。
(1)生産性資産
(2)活力資産
(3)変身資産
(1)の 生産性資産は、「スキル」や「知識」、「人的ネットワーク」のことです。
新しいステージで新しいことにチャレンジするには、「スキル」や「知識」も新しくするというのは当然の話なので理解できます。
また、出会う人も変わりますので「人的ネットワーク」も変わってきます。
(2)の活力資産は、心身の「健康」のことです。
これも理解できます。
新しいことをはじめるには、「健康」であることは必須ですので。
カラダだけでなくココロも健康でないと「活力」が生まれません。
変化に対応などとてもできないでしょう。
(1)と(2)があれば、「マルチステージ型」にじゅうぶん対応できそうです。いま、一文無しでも、健康や活力、スキルや知識、人的ネットワークなどの「生産性資産」と「活力資産」があれば乗り切れそうです。
しかし、「LIFE SHIFT」では、(3)の変身資産の重要性を強調しています。
「変身資産」の3つの要素とは

「変身資産」には互いに関連する3つの要素があるとしています。
① 自分を知るために自問すること
② お手本にできるような友人・知人を持つこと
③ 前向きに行動すること
第一に、変身を成功させるためには、自分についてある程度理解していることが不可欠だ。
いまの自分を知り、将来の自分の可能性を知らなくてはならない。(中略)
これは簡単に言えば、自分の過去、現在、未来についてほぼ絶え間なく自問し続けることである。
第二に、(中略)活力と多様性に富むネットワークをすでに築いている人ほど円滑な移行を遂げやすい。
自分がどのように変身できるかについて、多様なロールモデルやイメージやシンボルを得られるからだ。
第三に、変身のプロセスが受け身の体験ではないことも明白だ。(中略)
私たちは、考えることではなく、行動することによって変化に到達する。そうした新しい経験に対して開かれた姿勢こそ、変身資産に活力をもたらす。
(P161 第4章「見えない「資産」-お金に換算できないもの」より
この姿はまるで、「柔軟性」と「活力」に満ちた「若者」のことのようです。
「変身資産」⇛「若者」⇛「ネオニティ(幼形成熟)」

「LIFE SHIFT」では、「マルチステージ型」人生で大人が持つべき若々しさについてこのように述べています。
「思春期の特徴」「ネオニティ(幼形成熟)」
平均寿命の上昇は(中略)若々しく生きる期間が長くなる可能性が高いように思える。(中略)
100年ライフで多くのステージといくつもの移行を経験するようになれば、柔軟性が不可欠な資質になる。
思春期の特徴を大人になっても保持し続けることの価値がますのだ。
そのように動物が幼体の性質を残したまま成体になることを、進化生物学では「ネオテニー(幼形成熟)」と呼ぶ。
(P225~226 第6章「新しいステージー選択肢の多様化」より)
「ネオテニー(幼形成熟)」とは、幼体の性質を残したまま成体になるという学説です。
「精神的」な面にも特徴があります。
それは「好奇心」です。
»参考:「幼形成熟ネオテニーとヒト」尾本 惠市(総合研究大学院大学シニア上級研究員 東京大学名誉教授)2009年公開講演会より
「好奇心」は、このような行動を引き起こします。
「何か好きなものを見つける」「おもしろいと思う」「興味を持つ」「疑問を持つ」
「マルチステージ型」ライフスタイルの「キーワード」になりそうですね。
「2. ライフスタイルの変化を生きるための重要な資産」のまとめ
「2. ライフスタイルの変化を生きるための重要な資産」をまとめると、
「多様性」「不確実性」の人生に対応するためには、若者のような「柔軟性」と「活力」が重要。たとえるなら「ネオニティ(幼形成熟)」状態
ということです。
遠回りして、よく知っている結論にたどり着いた感じがしますね。
まとめ:こたえは知っていた。行動するだけだった。

ここまで来ると、皆さんすでに気がついているのではないでしょうか。
これからの社会が大きく「変化」するだろうこと、「定年後」は自分に「変化」が必要なこと、そのために「柔軟性」や「活力」が重要であること。
これらは経験上すでにわかっていたのですが、「LIFE SHIFT」を読んで、やっと腑に落ちたというだけなのではないでしょうか。
腑に落ちなければ「行動」できないものです。
「LIFE SHIFT」の終章にこのような言葉がありました。
「いま変化を予期して行動する」「こたえられるのは結局のところ本人」
重要なのは、あとで変化を突きつけられるのではなく、いま変化を予期して行動することだ。
積極的に計画を立てて行動しなければ、長寿化は厄災の種になりかねない。(中略)
「私は何者か?」「私はどのように生きるべきか?」という問いにこたえられるのは、結局のところは本人しかいない。
人生が長くなれば、これらの問いは無視できないものになる。
(P356~360 終章「変革への課題」より)
まず行動できることは、2.内部環境分析 です。
1. 外部環境分析 | 2. 内部環境分析 | 3. SWOT分析 | 4. マーケティング戦略 |
身のまわりの状況・変化を観察する | 自分をじっくり深掘りする ⇛自己分析 | 身のわまりの「チャンス」と自分の「強み」を探す | 「チャンス」に「強み」をいかす計画をたてる |
具体的には、
「自己分析」をやってみる。自分の「価値観」を抽出する。「自分らしさ」をとらえる。です
自己分析の具体的な方法は、別記事で詳しく紹介しています。興味のある方はそちらもぜひお読みください。
われわれ世代は「開拓者(パイオニア)」

「序章」をあらためて読むと、こんな表記がありました。
われわれの世代は、マルチステージ型人生の「開拓者(パイオニア)」
未来についてはっきり言えることが一つある。
それは、大勢の開拓者(パイオニア)がうまれるということだ。
いまは個人もコミュニティも、企業も政府も、100年ライフに対応するための最善の方法をまだ見いだせていない。
ロールモデルもほとんど存在しない。(中略)
100年ライフの時代に、どのような生き方が有効で、どのような選択が最善なのか? 誰もそれを知りたいだろう。(中略)
しかし、率直に言って、未来について正確なことは誰にもわからない。
未来が次第に見えてくる過程では、社会で多くの実験がおこなわれ、多様性が強まるだろう。
(P33~34 序章 「100年ライフ)より)
「定年後」について、いろいろな書籍を読み、映画やYouTubeをみたり、先輩方の話を聞きましたが百人百様です。
われわれの世代が100年ライフ時代の「開拓者(パイオニア)」であるなら、「自分のやりたいことやるしかない」のではないでしょうか。
前例がないので好きなようにできる、まさに「開拓者特権」。これは素晴らしい「贈り物」といえますね。
「LIFE SHIFT(ライフ・シフト)」を参考に、自分自身の100年時代の人生戦略をスタートしてみてください!
今回は以上です。