体験ルポ!「シルバー人材センター」に入会してみた。

シルバー人材センター

60歳以上にならないと入会できない「特別な組織」があります。

どんなに入りたくても59歳以下では入会は許されません。

そんな「特別な組織」

それが「シルバー人材センター」です。

この記事では、筆者みずからが入会した体験をもとに、「シルバー人材センター」とはどのような組織なのかをご案内します。

企業で60歳というと「定年」をむかえる最高年齢層ですが、この組織では60歳は一番年下の存在です。

「ぺーぺー」の「新参者(しんざんもの)」なのです。

それではさっそく始めます。

エピローグ

「どのような組織か」とか「入会の方法」などの解説前に、いきなり体験談からはじめます。

入会して、いろいろと「驚いたこと」がありました。

入会すると「組長」の傘下にはいる

松原松沢組

筆者が入会したのは「公益社団法人 世田谷区シルバー人材センター」です。

まず、驚いたのが、入会が決まり配属されたのが「松原・松沢組」だったことです。

「組」なのか…

お電話いただいた事務局の方からは、

「近々「組長」から連絡がいきます」とのこと。

「組長」から連絡…

「組長」という響きで、勝手にあらぬ人物を思い描いてしまいました。

そして、なにもわからないまま「松原・松沢組 地域活動懇談会」に出席することになりました。

「地域活動懇談会」に参加して…

入会して数週間。まだ、なにも活動していない状態での「地域活動懇談会」参加です。

会場には少し早めに到着しました。

会場は小さな体育館で、机も椅子も何もない空間です。

少しずつ参加者が増えてきました。皆、大先輩の方々ばかりです。

完全に場違いな思いをいだきつつも、座る場所もなく、さりとて歩きまわる理由もなく、所在なげに少しずつ立ち位置をずらしながら周囲を探っていました。

気づくと、ゼミテーブルや椅子を並べ始めていました。

「威勢のいい号令」や「リーダーの掛け声」があったわけではありません。

「以心伝心」というのか「長年の知恵」とでもいうのか「テレパシー」というのか、誰かの的確な指示がないまま、何となく大きなコの字にテーブルと椅子が配置されました。

「お~い、組長はどこいった」

「みんなのお茶を買いにいったようだぞ」

「一人で大丈夫かい」

「2~3人で行ったみたいよ」

「それじゃあ、まあ、帰ってくるのを待つとするか」

組長がみんなのお茶を買って戻ってきたら懇談会がはじまるということがわかりました。

世代が変わると視点が変わ

会がはじまると、まずは世田谷消防署上北沢出張所の消防団の方々からの「AED講習」です。

活動報告懇談会

同じグループになった「大先輩」から教えていただいた教訓は、

「これは俺たちが知っていても意味がないんだ。自分がやられる方なんだからな。

 帰ったら家族に教えないとだめだぞ。

 俺の友人はそれをやらなかったから死んじまったんだ」

ということでした。

言葉に「重み」があります。

「自分の命を救う方法」を学んでいたなんて、考えもしませんでした。

AED講習が終わると次は「懇談、意見交換」です。

一人ずつ自己紹介と近況を述べていきます。

92歳ご婦人もいらっしゃいました。自分の親以上の年齢です。

同時期にかよっていた「職業訓練校」では20~30歳代の受講生が中心で、「自分の親より年上です」といわれていました。

ここでは真逆の立場になりました。

(別記事で、「職業訓練」の体験ルポ!がありますので、興味のある方はぜひこちらもお読みください。)

職業訓練イメージ

自己紹介で、皆さんにウケのよい話にある傾向があることに気がつきました。

それは、「老化」「生死」にかかわるネタです。

「以前は都合の悪いことだけ聴こえなかったが、今はなにも聴こえなくなった」

「雪の日の朝に小学生見守り隊をやったら、寒さで自分が見送られるところだった」

などです。

世代によりウケる話の「視点」がまったく違うのです。

「驚き」とともに、とても「勉強」になりました。

終了時も、誰とはなしにゼミテーブルと椅子の撤収がはじまります。

そして、終わるとみなさん静かにその場を去っていったのでした。

ちなみに、「組長」にご挨拶したところ、想像していた人とは違いとても穏やかな「兄貴」でした。

このような「シルバー人材センター」とは、どのような組織なのでしょうか。

詳しく調べてみました。

「シルバー人材センター」とは

シルバー人材センター

「シルバー人材センター」制度は日本特有のものです。

高齢者雇用や高齢者就業支援制度は他国にもみられますが、

①行政もかかわり全国的に統一したシステムが広がっている点

②センターが仲介する「請負契約」のシステムを採用して、就業者の負担やリスクを低減させている点は、

他国には見られない日本独自の特徴です。

急速な高齢化が進んでいる韓国では、日本の「シルバー人材センター」の成功例が研究され、2004年に韓国独自の「シニアクラブ」制度がはじまっています。

「根拠法」と「組織」 ~大規模な組織~

「シルバー人材センター」の根拠法は、「高年齢者雇用安定法」です。

第六章に記述されています。

参照: »e-GOV 法令検索:高年齢者雇用安定法 第六章 シルバー人材センター等

「組織」は市町村から国までの重層構造になっています。なかなか大規模なグループ組織です。

市区町村ごとに「シルバー人材センター」が設置されています。ほとんどは「公益社団法人」です。

世田谷区であれば、「公益社団法人 世田谷区シルバー人材センター」になります。

都道府県には「シルバー人材センター連合」が設置されていて、市区町村ごとの「シルバー人材センター」をたばね、運営や資金面での補助をしています。

東京都であれば、「東京都シルバー人材センター連合(公益財団法人 東京しごと財団)」です。

そして、全国の「シルバー人材センター連合」をたばねているのが、「公益社団法人 全国シルバー人材センター事業協会」になります。

シルバー人材センター組織
出典:公益社団法人 全国シルバー人材センター事業協会ホームページ

参考:»厚生労働省 職業安定局「全国厚生労働関係部局長会議 労働分科会配布資料 ~シルバー人材センター事業の概要~」平成16年1月20日

「設立履歴」~時系列まとめ~

設立の履歴で興味深いのは、「国」が主導してつくったのではなく、「東京都」が1974年(昭和49年)に設立した「東京都高齢者事業団(現 東京しごと財団)」がもとになっていることです。

「東京都」をモデルとして、全国の地方自治体に広がっていきました。

「シルバー人材センター事業」が法制化されたのは、1986年(昭和61年)の「高年齢者雇用安定法」の改正の時です。

地方自治体に先行して広がったということは、本当に社会から求められている制度であるということに他なりません。

「設立履歴」を時系列でまとめてみました。

年代出来事・関連法案
1974年(昭和49年)東京都で「高齢者事業団」設立
(シルバー人材センターの前身)
1975年(昭和50年)神奈川県で「かながわシルバー人材
センター協会」
設立
1978年(昭和53年)世田谷区で「世田谷区高齢者事業団」設立
(世田谷区シルバー人材センターの前身)
1980年(昭和55年)全国にシルバー人材センターの設立が進む
1986年(昭和61年)「高齢者雇用安定法」改正により、
シルバー人材センター事業が法制化
1993年(平成5年)「社団法人全国シルバー人材センター
事業協会」
設立
出典:東京しごと財団ホームページ
世田谷区シルバー人材センターホームページ

高齢化対策は、最近クローズアップされていますが、実は昭和の時代から対策がとられていたことがわかります。

シルバー人材センターの前身である「高齢者事業団」が設立されたのは、今から50年以上も前なのです。

「シルバー人材センター」の組織構成、事業運営

「シルバー人材センター」の組織構成は、公益法人「定款」にもとづいています。

会員参加による「総会」により決算や理事等の役員選任を審議し、次年度の事業を決定します。

理事が「理事会」で具体的に執行していくという流れです。

「理事」の方はみな会員から選ばれます。

「世田谷区シルバー人材センター」の理事長は80歳以上で、パソコンも使いこなす活動的な方だと事務局の若い担当者が教えてくれました。

また、東京都や世田谷区から出向してくる人は特におらず、全て自分たちで運営しているとのことでした。

「目的」「理念」 ~素晴らしい~

「シルバー人材センター」の「目的」「理念」はとても素晴らしいものです。

■目的

高齢社会のなかで、健康で働く意欲のある60歳以上の方が知識、経験、技能等を活かし、高齢者にふさわしい、就業を通じて、社会参加することにより『生きがい』を得て、ひいては地域社会の活性化を図っていく。

■理念

「自主・自立」 「共働・共助」

出典:世田谷区シルバー人材センター「会員ガイド」より

「シルバー人材センター」とは、この「目的」や「理念」を達成するための「就業システム」を提供する公益法人なのです。

「就業システム」について

「就業システム」については、さまざまな工夫がされています。

請負契約
出典:東京都シルバー人材センター連合ホームページ

「シルバー人材センター」の就業形態で最も多いのが「請負契約」です。

これは企業や個人から「シルバー人材センター」が仕事を請け負い、「会員」に業務を振り分けるという方法です。

「シルバー人材センター」と「会員」は雇用関係ではありませんので、「会員」は個人事業主のような立ち位置です。

雇用関係ではないため、「給料」「賃金」という考え方ではありません。

「配分金」と呼んできます。

個人事業主ということは、「労働基準法」「労災保険法」が適用されませんので、最低賃金や労災保険の対象外となります。

»参考:別記事『体験ルポ!「定年後」のリスキリングに最高に役立つ「職業訓練」~雇用契約一覧表~』

「シルバー人材センター」が威力を発揮するのはこの部分です。

最低賃金を考慮した「配分金」の設定と、

シルバー人材センター独自の傷害保険「シルバー保険」で、

労働関係法適用外の不安を解消しています。

一部の「シルバー人材センター」では、請負契約のほかに「労働者派遣契約」をおこなっているところもあります。

「世田谷区シルバー人材センター」は、こちらの契約方法の記述はありませんでした。

労働者派遣契約
出典:東京都シルバー人材センター連合ホームページ

会員構成 〜世田谷区シルバー人材センターの例〜

「シルバー人材センター」の会員構成はどのようになっているのでしょうか。

「世田谷区シルバー人材センター」を例にみてみます。

2022年度の会員数は約2,800人7割弱が男性です。

同年度の世田谷区の60歳以上の人口が23万5,000人でしたので、区内の1.2%の方が入会していることになります。

意外と少ないですね。

<2022年度実績>

会員種別/人口人数構成比
男性会員1,861人66.7%
女性会員925人33.3%
世田谷区シルバー人材センター
会員合計
2,786人世田谷区60歳以上人口の
1.2%
世田谷区
60歳以上の人口
235,445人
出典:「シルバーせたがや」2024 Vol.177 合併号、
世田谷区ホームページ「人口」

年齢別ではどうでしょうか。

2022年度の会員数の年齢別内訳はこのようになっています。

<2022年度実績>

年齢会員数構成比
80歳以上768人27.6%
75~79歳923人33.1%
70~74歳712人25.6%
65~69歳308人11.0%
60~64歳75人2.7%
合計2,786人
出典:「シルバーせたがや」2024 Vol.177 合併号より

最も多いのが75~79歳3割を超えます。

次が80歳以上27%70~74歳25%と続きます。

75歳以上で6割、70歳以上だと8割を大きく超えます。

60~64歳はというと3%以下で最下位、75人しかいません。

65~69歳でも11%です。

65歳まで雇用延長義務化、70歳までの就業機会の確保が努力義務になっていますから、まだまだ会社で働いているのですね。

(別記事で、「定年後」の実態をデータで説明しています。興味のある方は、ぜひこちらもお読みください。)

nextstage-data

どんな仕事があるの?

仕事の種類は「シルバー人材センター」の地域性によって特徴がでるところです。

世田谷区の主な仕事はこのようなものでした。

分類内容
軽作業放置自転車整理誘導、清掃作業(屋内、屋外)、除草作業、配布・配達、内職作業
管理業務自転車駐輪場管理(区立、民間)、施設管理
技術系毛筆筆耕、大工仕事、塗装工事、襖・障子の張替え、植木の剪定、刃物研ぎ、車の運転
育児・介護系家事援助サービス、児童見守り
講師系パソコン個人指導、講師、家庭教師
出典:世田谷区シルバー人材センター申込資料「主な仕事内容一覧表」より

軽作業や管理業務の比率が高くなっています。

世田谷区は「駐輪場管理」が一番多いそうです。

区立の駐輪場は全て請け負っているということでした。

IT系やビジネス系の仕事が多くなると、さらに選択の幅が増えそうです。

このほかにも、自分が得意とすることで企画を立てて、提案することもできます。

理事会で承認されれば「独自事業」として情報発信や会場提供をしてくれるとの説明でした。

「立川市シルバー人材センター」では、チラシまで作り積極的に募集しています。

立川シルバー人材センター独自事業

時代のニーズにそって活動の幅をひろげていますね。

最終的には会員の「独立」や「創業」などに発展していけば、理念である「自主・自立」をさらに後押しするのではないでしょうか。

受注件数や配分金の支払い実績はこのようになっています。

<2022年世田谷区シルバー人材センター実績>

発注元受託事業件数延べ人員配分金延べ人員あたり
配分金
家庭12,415件38,896人149,619千円3,847円
企業5,107件83,502人290,328千円3,477円
公共機関1,875件109,971人558,330千円5,077円
その他23件135人703千円5,211円
合計19,420件232,504人998,980千円4,297円
出典:「シルバーせたがや」2024 Vol.177 合併号より 一部加工

年間で1万9,000件以上の受託事業があって、延べ23万人以上が就業されていいます。

公共機関は、件数は少ないですが、就業されている人数が約11万人と多いことと、延べ人員あたりの配分金の額が5,077円と高いのが特徴的です。

まったくの「ボランティア活動」もあります。

夏の花火大会翌日の会場周辺の掃除や、年末の街の掃除などです。

「地域活動懇談会」で組長に参加の可否を問われたのが、「せたがや年末クリーンアップ作成」です。

思わず「参加します」とこたえてしまいました。

「松原・松沢組」は公園クリーンアップ担当です。

「せたがやクリーンアップ作戦」に参加してみた

せたがやクリーンアップ作戦

「ボランティア」というものにはじめて参加してみました。

参加者は8名。

おそろいのユニフォーム、軍手、ビニール袋、ごみ拾いトングといった装備が配布されました。

近くの公園まで徒歩で移動、移動中も道路のゴミを拾いながら歩きます。

公園に到着すると、「組長」の掛け声の前に各自ばらばらとスタートしていました。

30分ほどで「クリーンアップ作戦」は終了です。

あっという間でした。

皆さん満足そうな表情です。何事にも一生懸命取り組む姿勢はとても勉強になります。

駅までご一緒した先輩によると、多摩川花火大会の後の「クリーンアップボランティア」は小学生も参加してもっと大人数でやるそうです。

こういった活動が、「地域活動」「地域貢献」「地域交流」の一つの形なのだなと実感しました。

入会までの流れ(時系列)

入会の問い合わせをしてから、実際に入会するまでを時系列でまとめてみました。

事前説明と面談をzoomでのリモート希望にしないと、少し時間がかかります。リアル開催が極端に少ないので。

また、面談後も理事会の承認が必要なので、通知がくるまで少し時間がかかります。

年月日内容
2024年8月6日「世田谷区シルバー人材センター」
ホームページより入会申込。
事前説明会はZoomオンラインを希望
2024年8月8日申込書類一式が郵送されてくる
2024年8月11日書類に記入し返送
2024年8月16日事務局よりTEL:今後の進め方の説明
メール:入会説明と面談の日時、
ZoomURLが送られてくる
2024年8月22日Zoom入会説明、面談 (40分程度)
今後の進め方の説明:
9月の理事会で入会承認後に正式入会
2024年9月末入会承認、所属組、規程集、配分金支払い
システム等書類一式が郵送されてくる
2024年10月2日年会費1,000円振込
2024年10月4日「松原・松沢組 地域活動懇談会」のお知らせが
往復はがきで送られてくる
出席で返送
2024年10月27日「松原・松沢組 地域活動懇談会」実施
「せたがやクリーンアップ作成」申込
2024年12月2日組長よりリマインドTEL:参加の最終確認
2024年12月4日「せたがやクリーンアップ作戦」実施

プロローグ

シルバー人材センター

「人生100年時代」といわれるようになり、「定年後」の時間はますます長くなっています。

楠木 新さんは著書「定年後」で、定年60歳からの15年を「黄金の15年」と表現しています。

「シルバー人材センター」の先輩方は、「黄金の15年」をこえて、まだまだ歩み続けているのです。

理念である「自主・自立」「共働・共助」を行動に移すと、どのようになるのかを示してくれています。

「LIFE SHIFT2」(アンドリュー・スコット/リンダ・グラットン著)では、高齢期の移行についてこのような言葉がありました。

平均寿命が75歳程度だった時代の人生の第3ステージといえば、しばらく余暇の日々を過ごし、そのあと健康が悪化しはじめて、やがて人生最後の移行が訪れる、というパターンが普通だった。

しかし、状況は変わりはじめている。(中略)

新しいタイプの移行を成功させるために、それまでと同じように働き続ける人もいる。

顧客と接する仕事に就いたり、自分と同世代の顧客をサポートする業務に携わったり、長年かけて積み上げてきた結晶性知能と知恵がものを言う職を選んだりする。(中略)

今後、同様の動きはさらに多くの業種に広がり、より幅広い層の人たちがそうした生き方を選ぶようになるだろう。

(「LIFE SHIFT2」 P155~156「第4章 探索」高齢期の移行ーよい老い方をするために)
¥1,980 (2025/02/24 23:27時点 | Amazon調べ)

(別記事で、「LIFE SHIFT」リンダ・グラットン/アンドリュー・スコット著 について紹介しています。興味のある方はぜひこちらの記事もお読みください。)

LIFE-SHIFT

「シルバー人材センター」とは、今までの「3ステージ」型の人生から「マルチステージ」型に移行している社会なかで、新しい生き方の「先駆者」として歩まれている先輩方の組織なのです。

「背中をみて学ぶ」ことができます。

なにより、そのような先輩方から「まだ若いから」と扱われる不思議体験ができます。

「まあ、先は長いから、あまり力むなよ」と肩をたたかれるような感覚です。

「定年後」の計画や挑戦だと、肩ひじはって進もうとしている時に、

力まないで進む「視点」

もあることを体験できる貴重な機会になるはずです。

今回は以上です。